2014/03/23

Nothing



Nothing  / Guilty of Everything (Relapse)

アメリカのシューゲイズバンド、ナッシングの1stアルバム。前作のEPが素晴らしかっただけに、とても期待していた作品でした。あのEPでは疾走感のある曲とフォーキーでこみ上げる曲がバランス良く配置されていたのだけど、このアルバムはロック色が強く壮大で、ずっしりとした重さがありました。

彼らの特徴はブラックメタル的なギターサウンドと、ウィスパーな男性ヴォーカル、メランコリックなメロディの融合だと思います。そして道を歩きながら聴くと無風なのに強風が吹いているんじゃないかと思うほどのフィードバックギターが炸裂し、目の前が一気に色を失って荒涼な風景に変わります。耳から流し込まれているというより、お腹の底からズシンと鳴らされているような轟音。ライドやジザメリが鳴らす耳を劈くような轟音ではなく、嫌でも内面を抉られるような、逃れられない轟音なのです。聴き終えた後は、追いはぎにあったかのような喪失感に苛まされますが、それでもしっかり地に足着いている力強さがあります。よくシューゲイズはドリームポップって言われるけど、彼らにはそのワードは当てはまらないね。すごく現実感のある音だから…。

正直に言ってしまうと、個人的にはもう少しポップなメロディの曲も欲しかった。なぜならやっぱりあのEPが素晴らしかったからです。Sway、Mew、Daysleepersのような、イギリスからの影響を受けたバンドに通じるものがあったし、それを漆黒のギターサウンドで表現していたのがカッコ良かった。特にラスト2曲の"If Only"、"The Rites Of Love And Death"は感動的で、切なくも甘いメロディは彼らの素の部分を見ているかのような優しさに包まれていました。

今回のアルバムはイギリスと言うより、アメリカ的なオルタナロックに寄っていて、それこそスマッシング・パンプキンズっぽさとイエスーをミックスさせたようなサウンドになってます。ダイナミックな音の展開はサクソン・ショアにも通じるね。1曲目はLongwaveの"Sirens In The Deep Sea" を思い出しました。とってもメランコリックで、大好きな曲。3曲目の疾走感はこれぞ強風シューゲって感じのどこまでもクールでかっこいい曲。5曲目は音からもメロディからもやるせなさがこみ上げてくる切ない曲。歌っているというより何かを諦めたかのような、溜め息に近いヴォーカルが印象的。こういう曲が日々生活してて、やたらしっくりくる時もあるんです。6曲目はアルバム中一番ポップな曲で、つかの間の安心感を与えてくれます。Cloud Nothingsの"Attack on Memory"を思い出しました。そして7曲目からラストまで堕ちていくような、緊張感のある楽曲が続きます。その中でもアルバムタイトルでもあるラスト曲「Guilty of Everything」はじわじわ泣けてくる。歌詞とかタイトルからは全く明るさや希望がないけど、メロディや声には失っても「その先」を感じさせてくれている気がします。自分にとって音楽を聴くってことは、何かしら人の温度を求めているのだと思います。特にこのアルバムは重厚感のあるハードでダークなギターサウンドから、最終的には声に耳が行きましたから…。

それにしてもアートワークが最高にミニマル!音のイメージをそのままばっちり表現していますね。彼らの作品は全てモノトーンで統一されていて、EPが螺旋階段、今回のアルバムが旗をモチーフにしています。黒背景に降伏を意味する白旗はたなびいているようには見えず、風が吹いてそのまま固まってしまったようなイメージ。ケースを開けると真っ白な盤が出てきてそのコントラストには感動すら覚えました。そして彼らのシンボリックなロゴマークは随所にちりばめられ、否応でも「Nothing」というキーワードが刷り込まれます。ここまで否定や罪悪感という言葉を使いながら全くネガティヴさを感じさせないかっこよさ。このデザインはOrion Laundauによるもので、メタル系バンドのアートワークをたくさん手がけているようです。

春だからといって浮かれてないで、今日も彼らの音を聴きながら出勤です。

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