2012/04/30

Tears Run Rings


Tears Run Rings / Always, Sometimes, Seldom, Never (Clairecords)

アメリカのシューゲイズ・バンド、ティアーズ・ラン・リングスの1stアルバム。なんだかこのバンドの音を聴いてしまうと、シューゲイズなんてジャンルもどうでもよくなってしまって、いつも自分の人生のことを考えてしまう。このジャケットのような森の中をずっと歩いて歩いておんなじところぐるぐるぐる回って、どんなに考えても答えなんて見つからなくて、みたいな葛藤が渦巻いている。さらにオオカミにでも襲われたらどうしよう、ってビクビクしながら歩いてる今の自分が想像できる。

このバンドのエドとローラはシェルフライフ・レコーズを創立した人たち(あとにこの2人は夫婦となる…!)。2000年代のインディポップシーンを彩ってくれた、ギターポップファンにとってかけがえのないレーベル。そしてこれまた大好きなAutocollantsというアノラックなシューゲイズをやっていた経歴もあり。特にローラなんてインディポップ界のプリンスで、たくさんの別ユニットを作って作品をリリースした才能豊かな人。自分も彼女のファンで気付くと彼女のレコードが家にたくさんあったりする。

なのでティアーズ・ラン・リングスを初めて聴いた時はかなりぶっ飛んだのです。スカスカのあの音はもう皆無。完全にイギリスの血を引きついだ本格的なシューゲイズバンドに成長してて…。ほんと、感慨深い!わりとコクトーツインズとかスロウダイヴ直系の音だけど、インディポップな感性が生きているから、そこがまた魅力的で違うところでもある。 重たいサウンドでも汚れのないローラのヴォーカルが乗ると不思議と安心するんだよね。大丈夫、オオカミなんていないよって言ってもらっている気がする(笑)。

このアルバムはストーリー性があって、聴き始めるとあっという間に終わる。曲順が完璧。特に後半の流れが好きだなぁ。"Waiting for the End"は霧雨の中を歩いているようで、天使みたいなローラのヴォーカルが美しい。"Run Run Run"はベースラインがニューオーダーそのものって感じでかっこいい。タイトルもまんま影響されてるし。そしてギターポップファン感涙の疾走シューゲポップな名曲、"Send Me Back"は何度聴いても感動的!!そしてラストはノイズシャワーで森を抜けて海にたどり着くようなイメージ。実際彼らの2nd(これまた傑作)のジャケットは海だしね。って完璧じゃないか(笑)!

ところでこのジャケットを見て思い出すのは20世紀の画家、マグリットが描いた「白紙委任状」 。美術の教科書やトリックアートの本なんかでよく見るあの有名な絵です。このアートワークをデザインした人はきっとこのマグリットの絵をヒントにしたはず(笑)。違うかもしれないけど。文字が木に隠れてたり、全面に出て来たり、不思議で素敵なアートワークです。うん、そういう意味ではタイポグラフィ的にも価値のあるCDだと思う。

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2012/04/05

Frankie Rose


Frankie Rose / Interstellar (Slumberland)

幾何学模様のアートワークが地味ながらも美しい、フランキー・ローズのアルバム。先行シングルの"Know Me"がThe Wakeの曲みたいでイントロの次点で即効やられてしまったのだけど、アルバムもとっても素晴らしい。

宇宙で80'sがコンセプトになっているようで、全体的に浮遊感のあるサウンドが気持ちいい。夜中にヘッドフォンで聴くとフワフワ宙に浮いてどっかへ飛んで行ってしまいそう。静かなオープニングから彼女の作り上げた宇宙の世界に吸い込まれちゃいます。前半はポップに弾けて、後半に行くにつれてゴシックっぽさが出てくる展開が好き。ゴスっていっても基本はポップだからあくまでも親しみやすいところがまた魅力的。ステレオラブっぽさも感じるなぁ。

3曲目の"Gospel / Grace"なんてデュラン・デュランの「オーディナリー・ワールド」みたいなイントロでびっくり。他の曲ではなぜかABBAなんかも浮かんで来てしまった…。いや、ここはセイント・エティエンヌって言っておきたい笑。しかしこんな音がアメリカから出てくるなんてすごいなぁ…。どんどんUKとの境界がなくなっているような気がする。逆にイギリスはUSっぽい音を出してたりね。

音はレトロでありつつも、やっぱり今のフィルターを通しているから、古くささは全く感じない。だからといってクールに貫いているわけでもなくて、温かみがあるんだよね。それはアートワークからもPVからも感じるよ。そうそう、このオプアート的なデザインはブリジットライリーやヴァザルリを思い出しちゃいました。JESSE FRANKELというアメリカのデザイナーによるもの。盤のデザインもよく見ると「FR」というカタチになっている。芸が細かい!

このアートワークをずっと見ていると酔ってしまうような…。うん、彼女の浮遊感あるこのアルバムにも酔ってしまうような、吸い込まれるような魔力が潜んでる。

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2012/04/01

Glo-Worm


Glo-Worm / Glimmer (K Records)

春になると無性に聴くたくなるのがこのグロー・ワームのアルバム。グロー・ワームというのはゴムで出来たおもちゃのことだそう。もっと他に良い名前はなかったのか?と思うけど、なぜか耳に残るのでこれはこれでいいのかも。歌っていることがきっと恋愛のことなので、アートワークも恋愛映画のワンシーンを切り取ったようなイラストが印象的。ギターはセント・クリストファー(!)のテリー・バンクス、ヴォーカルはいくつものバンドを渡り歩いて来たパム・ベリー。基本はこの2人によるユニットだと認識しています。

まるで木漏れ日のようなアコースティックギター、美しくこだまする繊細な女性ヴォーカル、切なくて儚いメロディが次々と繰り広げられます。基本はギターとヴォーカルだけなのに、こんなにもイマジネーションが広がるなんて。1曲1曲が短いのも儚さやもろさが余計出ている気がする。春なんて、良いことなんて、すぐに過ぎ去ってしまう。当たり前だったものが急に目の前からなくなったりして、でもその現実は受け止めていかなきゃいけなくて…。決して後ろ向きなことではなくて、「微かな光」と名付けられたこのアルバムを聴いて、少しでも前に進むことができればいいなぁと思うわけです。

15年前に出たこのアルバムが今でもこんなにも光り輝いているのは単純に素晴らしいメロディと歌心に尽きる!捨て曲が無い上にアルバムとして風通しもよくて本当に心地が良い。1曲目の「Travelogue」のイントロからして彼らの世界に引き込まれてしまいます。トレイシー・ソーンや、アリソン・スタットンなんかが引き合いに出されるけれど、個人的にはそれらと肩を並べてもおかしくないクウォリティだし、この切なさは彼ら独特のものといえます。

このアルバムには4つのカヴァー曲が入っていて、まずは大好きなキュアーのFriday I'm In Love。あのドラマティックな曲がさわやかでドリーミーな曲に生まれ変わっています。ペトュラ・クラークのDown Town、シャルル・トレネのBeyond The Seaはどちらも古い曲で、歌っている人が分からなくて思わず調べてしまった。でもこういったカヴァーがオリジナル曲と違和感無く入っているというのはすごいことだなぁとしみじみ思う。そしてこれまた大好きなヴェロシティ・ガールのCrazy Townのカヴァーも完全に彼らのものにしていて素晴らしい。

それにしてもヴォーカルのパム嬢はすごいですよ、なんてったってシューゲイズバンドとしても名高い元ブラック・タンバリンのヴォーカルなんだから。20年経った今、彼らから影響を受けたバンドは本当にたくさんいるはず。Dam Dam GirlsだってVivian Girlsだって、Pains of Being Pure at Heartだってブラック・タンバリンの元で育ったようなものです。って言い過ぎか…笑。

ブラック・タンバリン解散後にギターノイズを捨ててこんなに繊細なアルバムを作るなんてすごいなぁ。でも彼女のヴォーカルの魅力はこういったアコースティックな作風に合っている気がするんだよね。このあとに彼女がやっている数々のユニットはどれも美しいアコースティック・ポップなものばかりだし。それに反して最近知ったのはブラック・タンバリン再結成のニュースで、なんとラモーンズのカヴァーEPを来月出すのだとか。リアルタイムのバンドの影響で本家が再び動き出すとは、なんてタフなんだろう。個人的に再結成があまり好きでない自分としては複雑だったりするけど、なんだかんだ楽しみでもあったり。

そんなわけで彼女の活動からはまだまだ目が離せません。いつかきっと出るよ、パム・ベリーのトリビュートとか、アンソロジーが。それくらい魅力的で才能のある、シンガーソングライターなのです。

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