2014/08/13

Aden


Aden / S.T. (Fortune4)

エイデンは夜寝る前に聴きたくなる、とても安心感のあるギターポップ。昼間でもいいけどなんとなく夜になって布団にくるまりながら聴くイメージ。派手さはないけど素朴で歌を大事にしたいい曲がたくさんあります。

初めて彼等の曲を聴いたのはセカンドアルバムの「Black Cow」(Teen Beatレーベルの名作の一つでもあります)。オープニングの"New Fast"を聞いたときの感動は今でも忘れられない。ここから何かが始まる期待感や希望が込められたイントロのギターとベース。柔らかな男性ヴォーカル、あまりにも優しくて切ないメロディ。もうメロメロですよ、好きな要素しか無いんだもの。彼らの音の質感ってけっこう独特で、全ての音や声に角が無い。丸みを帯びていて柔らかくて、まるで人肌で温められたバターのように溶け込んでいくんです。

これは彼等のファーストアルバムで、他のアルバムに比べたら静かでミディアムテンポの曲が多い作品。土くさくて都会に出る前の田舎の青年が奏でてる感じです。セカンド以降はバンドとしての骨格が出来上がって一本筋の通った、洗練された都会的な音になっていくんだけど、メロディそのもので言ったらこのファーストが一番いいかもしれない。それにこの作品だけ女性コーラスやチェロを取り入れてたり、時折ファズなギターがきこえてくるのも特徴かなと思います。

1なんて男女ツインボーカルで初期のカメラ・オブスキュラとかパウンドサインみたい。4のチェロが絡む感じもホリデイ・フライヤーみたいで大好きです。6のメランコリックでやるせない感じとか、9のトゥットゥルコーラスがキュートな曲はインディポップファンに支持されそう(そういえば昔のインタビューで彼らはmoonlings(Bella Vista〜Pipasの前身バンド)は世界で2番目のバンドって言ってたのも頷ける)、10の街灯に照らされた道を歩きながら帰路に経つ感じとか、サビのメロディでもう名曲としか呼べない11、アルバム中少し異色でサイケデリックな12も聞き逃せない。泣きのツボを完全におさえたメロディが全編に漂ってます。そしてこの静けさ……たまりません。SeamのスーヤンパークがやっていたFortune 4というレーベルからのリリース。そうか、この静けさはSeamにも通じていたんだな。

それにしても味のありすぎる牛の絵です。子供が描いたのかな?こんな夜感のある牛の絵、見たことないよ。先述した通りセカンドのアルバムタイトルはBlack Cowで、どうやら彼等は牛が好きみたい。そうか、バターのように…という表現は間違っていなかったんだな。さらに3rdのアルバムタイトルがhey 19。牛だけでなく、スティーリー・ダンも好きみたい。そう、スティーリー・ダンも初期は土臭くて、アルバムを出す毎に都市に向かって行ったんだよね。

Label Site iTunes

2014/03/23

Nothing



Nothing  / Guilty of Everything (Relapse)

アメリカのシューゲイズバンド、ナッシングの1stアルバム。前作のEPが素晴らしかっただけに、とても期待していた作品でした。あのEPでは疾走感のある曲とフォーキーでこみ上げる曲がバランス良く配置されていたのだけど、このアルバムはロック色が強く壮大で、ずっしりとした重さがありました。

彼らの特徴はブラックメタル的なギターサウンドと、ウィスパーな男性ヴォーカル、メランコリックなメロディの融合だと思います。そして道を歩きながら聴くと無風なのに強風が吹いているんじゃないかと思うほどのフィードバックギターが炸裂し、目の前が一気に色を失って荒涼な風景に変わります。耳から流し込まれているというより、お腹の底からズシンと鳴らされているような轟音。ライドやジザメリが鳴らす耳を劈くような轟音ではなく、嫌でも内面を抉られるような、逃れられない轟音なのです。聴き終えた後は、追いはぎにあったかのような喪失感に苛まされますが、それでもしっかり地に足着いている力強さがあります。よくシューゲイズはドリームポップって言われるけど、彼らにはそのワードは当てはまらないね。すごく現実感のある音だから…。

正直に言ってしまうと、個人的にはもう少しポップなメロディの曲も欲しかった。なぜならやっぱりあのEPが素晴らしかったからです。Sway、Mew、Daysleepersのような、イギリスからの影響を受けたバンドに通じるものがあったし、それを漆黒のギターサウンドで表現していたのがカッコ良かった。特にラスト2曲の"If Only"、"The Rites Of Love And Death"は感動的で、切なくも甘いメロディは彼らの素の部分を見ているかのような優しさに包まれていました。

今回のアルバムはイギリスと言うより、アメリカ的なオルタナロックに寄っていて、それこそスマッシング・パンプキンズっぽさとイエスーをミックスさせたようなサウンドになってます。ダイナミックな音の展開はサクソン・ショアにも通じるね。1曲目はLongwaveの"Sirens In The Deep Sea" を思い出しました。とってもメランコリックで、大好きな曲。3曲目の疾走感はこれぞ強風シューゲって感じのどこまでもクールでかっこいい曲。5曲目は音からもメロディからもやるせなさがこみ上げてくる切ない曲。歌っているというより何かを諦めたかのような、溜め息に近いヴォーカルが印象的。こういう曲が日々生活してて、やたらしっくりくる時もあるんです。6曲目はアルバム中一番ポップな曲で、つかの間の安心感を与えてくれます。Cloud Nothingsの"Attack on Memory"を思い出しました。そして7曲目からラストまで堕ちていくような、緊張感のある楽曲が続きます。その中でもアルバムタイトルでもあるラスト曲「Guilty of Everything」はじわじわ泣けてくる。歌詞とかタイトルからは全く明るさや希望がないけど、メロディや声には失っても「その先」を感じさせてくれている気がします。自分にとって音楽を聴くってことは、何かしら人の温度を求めているのだと思います。特にこのアルバムは重厚感のあるハードでダークなギターサウンドから、最終的には声に耳が行きましたから…。

それにしてもアートワークが最高にミニマル!音のイメージをそのままばっちり表現していますね。彼らの作品は全てモノトーンで統一されていて、EPが螺旋階段、今回のアルバムが旗をモチーフにしています。黒背景に降伏を意味する白旗はたなびいているようには見えず、風が吹いてそのまま固まってしまったようなイメージ。ケースを開けると真っ白な盤が出てきてそのコントラストには感動すら覚えました。そして彼らのシンボリックなロゴマークは随所にちりばめられ、否応でも「Nothing」というキーワードが刷り込まれます。ここまで否定や罪悪感という言葉を使いながら全くネガティヴさを感じさせないかっこよさ。このデザインはOrion Laundauによるもので、メタル系バンドのアートワークをたくさん手がけているようです。

春だからといって浮かれてないで、今日も彼らの音を聴きながら出勤です。

Bandcamp Label Site

2013/12/22

Top 10 albums of 2013


Top 10 albums of 2013

今年よく聴いた作品を振り返ってみました。

10. Vampire Weekend / Modern Vampires of the City (XL Recordings)
今年のフジロックで彼らの出番を待っている間での会話。「自分:あ、ステージのバックが花柄だ。なんか今年よく花柄見るよね。友人:今年花柄きてんねん!」そうか、知らなかった。確かに今年は音楽でも花柄のアートワークをよく見かけました。いち早くそういうトレンドを取れ入れる彼らはやっぱりオシャレだと思いました。そう、彼等のジャケットのアートワークはいつも素晴らしい。特にブックレットのデザインがいつも素敵なのです。Matt de Jongによるデザインは、黒を基調にしつつも赤を差し色で加えたり、手書きの要素もキュートでセンス抜群。音に関しては確かに黒さは薄まったけど、純粋なポップ・アルバムとしては素直に良いアルバムだと思いました。

Official Site | ♪ Listen to "Step" (Music Video)


9. Funeral Advantage / Demo
一聴してWild NothingとかCatwalkみたいだなと思って、すぐにお気に入りなった作品。デモだし、声もあんまり聴こえないけど、この蒼さがたまらない。知っている人だけがそっと大事に持っておきたい愛すべきバンド。大通りには行かず、ついつい寂しい路地裏に向かってしまう感じにも似ている。最近Catenineとのスプリットシングルを出したけど、それもけっこう良い。秋の少し肌寒い時期にハマる音で、電車の中でも流れる景色を見ながらよく聴いてました。2曲目の"No Wind"は大好きなCat's Miaowっぽさもあるね。ラストがキュアーの"2late"のカバーなんだけど、ほとんどオリジナルに聴こえて気がつかなかった…。湖面に静かに広がる波紋のような、じわじわ来るシューゲイズ。フルアルバムも是非作って欲しいです。

♪ Bandcamp


8. Phoenix / Bankrupt! (Glassnote)
ハレーションを起こすようなシンセが耳を劈く、ポジティヴさに溢れてるフェニックスのアルバム。テンションを上げたい時はいつも聴いてました。ちょっとやりすぎなくらいの過剰なアレンジが、地味な曲ばかり聴いてる自分にとっては逆に新鮮だったな。個人的には3rd以降はどの曲もリフで強引にまとめあげる印象が強くなっていって、正直少し距離を置いてる時期もありました(笑)。でもこのアルバムは華々しいアレンジと共に、今まで以上にポップでカラフルな楽曲ばかりが入ってる。前作に収録されているLove Like A Sunset Part IIを進化させたような9曲目のBourgeoisには心から感動…。そう、こういう曲が聴きたかったんだよ、僕は…。

Official Site♪ Listen to "Bourgeois(Music Video)"


7. The Changes / American Master (Tokyo Co.)
プリファブ・スプラウトを思わせるトレンディなサウンドで、今でも輝きを放っている1stアルバムから数年が経ち、まさかの復活で2ndアルバムがリリースされて感激!あそこまでの躍動感は無いにせよ、今年リリースされたレコードの中でも楽曲の良さはトップレベル。1stはイギリスへの憧れが全面に出ていたけど、この2ndはタイトル通りアメリカがテーマになっていると思う。My SpaceのトップフレンドにChicagoがあるだけにやっぱ影響受けてるよね。全体的にちょっとフォーキーで、肩の力が抜けてリラックスした雰囲気も良いし、80’sというより70'sっぽいレトロな音の響きも素晴らしい。良い曲が多いけど、ラストのAOR風なメロウナンバー、Never Blueがすごく好きでした。

♪ Listen to "American Master" Full Album Streaming


6. Jesu / Everyday I Get Closer To The Light From Which I Came (Avalanche)
イェスーは灰色のような日常と感情にしっくりくる音楽だと思う。何か今の気分に合う音楽を聴きたい。でも明るくてキラキラしたものは聴けない。そんな時にハマるのが彼の音楽でした。絶望でも希望でもなく、寄り添うのでもなく、だからといって突き放すわけでもなく、いい距離感で自分の耳に入り込んできました。柔らかな轟音は少し温もりも感じさせてくれて、安心感もある。ジャスティン・ブロードリックという人はメタルバンドをやっていたのに、どうしてこんなにも叙情的な曲が書けるんだろう。そして友人に言われた「や、メタルってメロディアスやで!」という言葉で納得。だからといってメタルを聴こうとは全く思わないけど(笑)。暗くもなく明るくもなく、曖昧でグレーが似合う美しいアルバム。

♪ Bandcamp


5. Boats & Trains / Blooming
なぜか無性に聴きたくなるバンドでした。最初はちょっと地味かな?なんて思ってたけど、全体的に漂うメランコリックさや、抑制の効いたサウンドがだんだん独特に思えてきて、クセになってしまいました。それなりに元気な曲もあるけれど、決して明るくならず、基本的にはモノトーンで憂いを帯びてる曲が多かった。特に3曲目のBloomingは身体中に染み渡る水のように、しっとりとした質感のネオアコで愛聴してました。というか全部いいんです、実は…。気がつくといつも傍らにいたのは彼らだったのではないかと思う。サイレントでジェントリーなアルバム。

♪ Bandcamp


4. Nothing / Downward Years To Come
実際にリリースされたのは2012年だけど、あまり流通してなさそうだし今年になってからやっと聴いたので気にせずランキングに加えました。仄暗い、渦巻くフィードバックギターにとけ込む甘いウィスパー・ヴォーカルは正にシューゲイズ。畳み掛けるようなドラミングと轟音が押し寄せてくるオープニングから、疾走感のある2曲目のDownward Years To Comeのへ流れには思わず息を呑みました。というか シューゲイズ・バンド、Daysleepersにメロがそっくりでたまらない。後半のミディアムナンバーもクウォリティが高く、あくまでもメロディが中心になっているので最後まで聴けます。全5曲ながらアルバム級の充実感がありました。

♪ Bandcamp


3. Proctors / Everlasting Light (Shelflife)
ギターポップは自分にとってカイロプラクティックみたいな存在なのかもしれない。ギターポップのおかげで歪んだ心をいつも矯正してもらってるような気になります。じゃあこういう音楽に出会ってなかったらどんだけ捻くれた人間になってたんだろうと思うと少し怖い(笑)。彼らは苦しいことも悲しいことも乗り越えてきたからこそ見える、本物のキラキラ感を知っていると思う。だからこのアルバムはきっと何年経っても新鮮な気持ちで聞けるはず。それくらい不変的で素晴らしい曲ばかりがたくさん詰まってるし、お花のジャケットもすごく素敵でとても気に入ってる。真っ直ぐでいることはとても強いことだと思う。Proctors先生の治療、かなり効きました。

Labal Site♪ Listern to "Into the Sun"


2. Brother Kite / Model Rocket (Clairecords)
個人的には本当に待望だった、アメリカのシューゲイズバンドのニューアルバム。シューゲというよりほとんどパワーポップなサウンドになってるけど、相変わらずいい曲を書くし、シューゲにしては歌心がある魅力的なヴォーカルも健在。前作が自分と向き合う孤独感がテーマだったのに対して、今作は活き活きとした幸福感に溢れてる。1〜3曲目までの疾走感のある流れは圧巻で、1曲目のSecretsなんて歌い方がすごくはっちゃけててビックリ。雪が溶けて春がやっと来たことを心から喜んでいるような元気いっぱいの曲。3曲目のSmall Sparksの泣きメロ感は彼らの楽曲の中でも上位にランクインする名曲だと思ってます。Death Cab For Cutie、Nada Surf、Teenage Fanclub、Pernice Brothersのように、いつまでも"良い歌"を届けてくれそうな、そんなバンドになったと思いました。…でも心のどこかでやっぱり轟音を求めているけどね。

Official Site | ♪ Bandcamp


1. Silver Screen / When You and I Were Very Young (Plastina Records)
メロディというものはもう出尽くしているのかもしれない。でも彼の音楽を聴いて、まだまだそんなことはない!と思えたこと、こんなにも心を豊かにしてくれるメロディがこの時代に存在してくれていることが、僕にはとても嬉しかった。春の始まりを告げるオープニングから、足取りが軽くなって外に出掛けたくなるようなno really wonder、このアルバムの代表曲とも言える切ない名曲のmercy、cloudberry recordsからリリースされていたパッパラコーラスが印象的なa little more eachday収録も嬉しい。そして切ないというより悲しいメロディでアルバムの終わりを告げるFrom Window to the indifiniteまで一切捨て曲なし。この1年で一番聴いたのは間違いなくこのアルバム!文句無しの名盤でした。

♪ Bandcamp


けっこう迷ってなんとか10作品に絞りました。やっぱりSilver Screenはダントツだったなぁ。彼もBrother Kiteと同じClairecords所属だったから、老舗のシューゲレーベルのアーティストが作品をリリースしてくれたのは、やっぱり感慨深い。そして2組とも今やほぼシューゲでもないというのがなんとも…(笑)。

当ブログは今年もなんとか続ける事ができました。あんまり更新できてないけど、どうやら読んでくれている人がいるようです。でたらめな事も書いているかもしれないし、意味不明な事も書いているかもしれませんが、どうかお許しを…。これからもひっそり佇む静かなブログとして地味に更新していければと思います。

来年も素敵な作品に出会えますように!

PAGE TOP